2017-8-31

夕暮れ時、空はまだ赤くなくて、白に近いような青だった。涼しい風が吹いていて、建物と建物の間、銭湯の煙突の先には月がでていた。半分と少しの月。
夏の終わりの歌をくちずさみながら、歩いてみる。手は空気を指揮するようにゆれる。楽しい方はあっちかな、とよく風が抜ける方向に向かって進んでみる。
遠くの町のことを思う、この夏にいくつか訪れた町のこと。インスタントカメラを持ってその枚数分だけ写真を撮ることを決めて町を歩いた。
蜘蛛の巣に雨粒が溜まって、触れれば柔らかい糸のように雨が降り出しそうだった。
星を数えた。いくつかの星が流れたらしかった。山の端に消えていったのが見えた。
森の中の喫茶店に入って、雨音を眺めていた。どこにだって、いきたくなかった。どこにだって、いきたかった。
現像した写真は思いのほか暗くて、笑ってしまう。デジタルカメラのつもりで撮っていると光量が足りないことをようやく思い出した。27枚撮りのはずなのに、25枚しか手元に戻らなかった。
夢に揺れていた夏の残光のようなその写真たちは、淡く薄暗いなかで、それでもたしかに生きていたことを証明していた。

 

旅に出ようと、遠くの自分が誘う。そうだね、と今の自分が頷く。どこに向かうかわからない、風が背を押す。何度か振り返りながら、そちらへ進み出す。