2017-8-16

とぎれ、とぎれの、記憶を思い出したいのに、夏の風がひとつ、吹くたびにわすれていってしまうよな、そんな不安にかられる。
朝も、夕も、季節も関係なくすすむ時間の中で、覚えている記憶の断片だけをなぞりながら夜を過ごす。指を一つひとつ折りながら、あれは、これは、と闇の中に甘やかなひかりを灯すように浮かべていく。
べつに、わたしは、なににもなりたくなかった。何かになりたい記憶なんてなかった。一番強く何かになりたいと願ったのは小学3年生の頃で、先生を救いたかった。通信簿と一緒に手作りの焼き菓子を渡してくれるその先生がすきだった。彼女は、小指がなかった。小指のない手で、お菓子をつくっていた。
それから先は、善く生きたいとおもった。善く生きるとはどういうことなのかよくわからなかった。だからほぼ直感で善いと思えるほうを選んできた。結果的に善かったことも悪かったこともあった。
何にもなりたくなかった、なににも。
ポケットには片道切符がいつでも入っている。これを使えばたぶん、海の見える街までいける。時間にして16時間後くらいに。遠い海岸を眺めながら、観覧車から見下ろした風景のことを思う。観覧車のいちばん高いところから飛び降りたら、深く海に潜れるのだろうか。テールランプが線を引きながら車が次々と海へと向かう、波になる。
生きやすくしたいです。どうか、どうか。
そのために、わたしがたまたま生まれてしまった世界に対してできること。それは、できるだけ親切に優しく世界を解釈して伝えることしかできそうにないと思っています。今は。明日には変わるかもしれません。変わっていればいいと思います。
雨が降ってきました、ならべたひかりは消えません。そのかわり影が、ちろちろと揺れます。
おやすみなさい、これを読んでくれたあなたが、どうか優しい夢をみられますように。