松江

松江にいた。2階の窓から宍道湖を眺めていた。

遠くから太鼓の音が聞こえる。

「聞こえてきますね」

いつの間にか同じ部屋にいた女性に声をかけられる。そうですね、とかなんとか中途半端な返事をしながら、南中の日に照らされる湖面を眺める。湖畔では家族連れが釣りをしていた。何が釣れるのだろうか、釣る気もないのに気になったが、出雲からきたというその女性は知らないだろうと勝手に思い(つまり話すのが面倒だったのだ)、やっぱりみずうみを眺める。デフォルメされた星のように不規則にひし形になったり光の玉になったりしながら水はきらめいていた。

 

駅前の方に降りていく。ゆるゆると歩きながら音の方に近づいていく。交通規制で歩行者天国になっている橋を渡りきったあたりで祭りの行列とすれ違う。早くも遅くもない速度で、私と反対方向に歩いて行く。緑色の法被が街から浮いている。小人のように行列は進む。それと同じ速さで私は小人たちから遠のいていく。その顔に笑みは浮かんでいただろうか。

商店街の雑貨屋さんにはつばめの絵が描いていて、水色の文字で書かれた看板が出ている。秋にしては陽射しが暑い。その代わりに冷たい風が吹いて頬の熱を冷ます。鼕は遠ざかる。わずかに空気が揺れて、耳がそのぶん熱を感じる。

一度渡った橋まで戻ってくるとそこが一番風が強かった。横から吹く風が髪を乱す。手で髪を抑えながら風で揺れて光る川面がまぶしかった。透明な空に黄金の星が広がっていた。

どん、と遠くで太鼓が打ち鳴らされる。空には鳥が一羽、秋空を泳いでいた。どん。

16時。交通規制が解除され間もなく橋には喧騒が戻ってきた。

ゆるゆるとしばらく歩いた。