2015-01-01から1年間の記事一覧

2015-06-09

ごくごく小さな声で歌を口ずさみながら手紙を出すために散歩に出かける。逃げ出してしまおうか、とその歌は私をそそのかす。このまま線路沿いを歩き続けていったら、どこか遠くへたどり着くのだろうか。電車は目にも留まらぬ速さで通り過ぎて行く。あの人達…

2015-06-08

先週の金曜日、記憶にもないほど昔に会ったはずの親戚と20数年を数えて再会した。そんな状況だから再会と言う言葉を使うのは適切ではないかもしれないけれど、それでも確かに再開なのだ。少なくとも、彼女にとってはその言葉が正しい。 この歳になって顔も覚…

2015-05-31

夕方、家を出ると外は室内よりも涼しく、見上げれば月が昇っていた。 眩しくて視線を下げると田んぼには歪んだ月が沈んで、風に揺れるその姿をただ眺めていた。 元来、なにか主だった用事があって外に出たわけではない。それくらいの時間は許されるだろう。…

2015-05-28

「彩度が高い空だねー」 2年前、先輩の何気ない言葉が、あの日と似た空を見る度に思い出される。大学の図書館前、学校のカフェで買ったお弁当を片手に歩く道。 研究室に入ったばかりで、身の振り方も、そこで仲良くなる術もわからなかった頃。 「君はうまく…

2015-05-27

いつも終わらない世界の続きとしての今日を過ごす。 地続きの今日も、白湯にミントを浮かせている、そんなことは昨日から小さく変わっている。夏の準備。 もうしばらく、会話らしい会話をしていない。口の開き方を忘れ、それならばいっそ縫い合わせてくれな…

2015-05-25

夜の真ん中で、例えば学校のプールに忍び込んで君と話をしよう。話すことはなんだっていい。今日見た美しい光景について、あなたの好きな絵について、どんな食べ物がすき?これから先、君は何者になりたい?幸せなのはどんな瞬間? 蒼の夜がすべてを隠して、…

2015-05-24

光の尾が線を引いて後ろへ流れゆく。西の空は淡く色づき、街は徐々に夜の蒼さに飲み込まれる。 ふいに、ずいぶんと遠くまで来てしまったと、様々な感情が入り混じった感慨を得る。時間的にも、距離にしても、だ。その感情の中には、後悔も、憧憬も、恐怖も、…

2015-05-21

恙無く、あるいは恙無いふりをして、日常は過ぎてゆく。 一日は短く、一週間は長い。息継ぎの許されない大海を泳ぐことを強要され、エラはまだ持てずにいる。 久しぶりに、そして初めての、お茶のお稽古に向かう。いろいろなことを笑ってごまかして、そのた…

2015-05-12

4月の終わりに母が入院していたという。優しさのあまり薄情なその人はそんなことも伝えずに、今さらそのことを知る私は、どうすればいいのだろうとそんなことさえわからずにいる。 3歳の時から今に至るまで私が身に受けた病と同じ種別の病だという。これは遺…

2015-04-29

カーテンを開けて朝を見る。曇り。まだ時間が早かったからもう一度、とここ最近の暑さで一枚薄くしたベッドに身体を戻す。どこかへ、逃げ出す夢を見たような気がする。よく知っている場所。燃えるような、夕暮れ時の朱。 昨日の帰り道、古書店に寄って暑かっ…

2015−04−27

昨日一昨日と京都ふるどうぐ市へと。古い小学校の校舎へと一歩足を踏み入れると、そこは憧れの空間で、夫々のお店が夫々の好きを売っている。それを、時には異国の香りをこの手に感じながら持ち上げる。それらはおおよそ、ずっしりと重く、それでも時間の重…

2015-4-22

帰り道、細い通りにある古書店へ寄る。こちらに来てからよく訪れているお店だ。不思議と、僕は古本と相性がいいようで、大抵の場合その空間に馴染むことができる。ここもまた、そのひとつだった。オースターも、久生十蘭も、中井英夫も、澁澤龍彦も、梨木香…

2015-04-21

雨、のち晴れ。 昨晩は雨の音を聞きながらベッドに潜っていた。ベッドに潜りながら、しかし雨の中に体を委ねているような感覚だ。やまなければいいのに、なんて怒られてしまいそうな願い事をしながらみた夢は、実はあまりよく覚えていない。ただ重低音のよう…

2015-04-20

雨、ときどき曇り。 決められた時間に起きて、決められた時間に寝るような生活が始まって十数日が過ぎたことになる。 昨日、一昨日と、母と祖母がこちらを訪ねてきた。祖母は「これがきっと最後だから」なんて痩せすぎた体で言う。そんなことないでしょうに…