2014-01-31 21:41

3年前の自分は、果たして自分だったのだろうか。 そんなことを考えていて、薄ら寒い思いをした。 困ったことに、そのことを証明できるものはなにもないのだ。ただ在るのは、あやふやなこの身体だけだ。 3年前の自分は、この場所にいることを予想さえしていなかったし、あの頃とは考え方も驚くほどに変わった。それが、いいことなのか悪いことなのか、そういうふうにラベル付をする意味があるのか、わからないけれど。 たくさんのひとに出逢って、たくさんの本を読んで。たくさん悲しい思いをして、それでもいくつかは嬉しいこともあって。 そうして、気がつかないうちに僕は2011年1月31日の僕から遠ざかってゆく。

 

これ以上妙なものへ私は変身したくない。だが悲しいことだが、自分自身が多少とも怪物化しなければ戦い得ない本物の怪物が確かに存在するし、非人間化しなければ扱いえない問題というものもまた存在する。文学もまたそういう問題のひとつなのではないか。  ベムたちも妖怪と戦うときには、人間的仮装をかなぐりすてて奇怪な正体を現さなければならないのである。まがりなりにも人間の形のままでは、ロボット軍団とも怨霊妖怪とも戦えない。半人間の正体をさらし出さなければならないのだ。小説らしい小説を書くためにも。  だが非人間的な能力を使うたびに、じつはいよいよ非人間化してしまうのではないか。真人間への道は、かえって遠ざかるのではないか。恐怖ろしいことだ。本当に怖ろしいことだ。 (日野啓三『私のなかの他人』文藝春秋 S.50)