2016-05-04
連休前半は、実家へと戻っていた。
曾祖母に会うたびに少しばかり緊張する。忘れられてはいないだろうか、と。もう94歳を越えて、ベッドから起き上がることさえも難しい。まともに歩くことだって。家から出ることを嫌がるから、祖母と母が日夜気を配っている。
曾祖母の目の前に立って、声をかける。名前を呼んでくれるといい、と思いながら。ただいま、とだけ言う。
「大きくなったなあ」って開かない目で、名前を呼んで、そう言う。
「大きくなったよ」と力の抜けたような笑い顔で、だから私はそう応える。手は冷たい。声は震えている。硬くなった肌。歳とったね。
曾祖母はおひい、とずっとそう呼ばれている。おひめさま。
私と一緒に遊んでくれていたお転婆の姫様は、歳を重ねて眠り姫のようになっているけれど、相変わらず我が侭で、綺麗で、笑うと皺だらけの顔にもっと皺ができる。どうか最期まで笑ってくれているといい。苦しまずにいてくれるといい。
一緒に、庭を歩けるといい。