2017-8-4

何年ものあいだ、ノアには物が、いろんな物が見えた。幻覚が見え、起きているあいだも夢を見た。いまでは、語るに足るようなものが見えるとしても、たいていの人と同じで眠っているあいだに見るだけだが、前は長年、はっきり目ざめているあいだにいろいろ興味深いものが現れたのである。たとえばあるとき、南側の畑に出ているときに時計が見えた。トラクターを運転しているヴァージルにも見えるかどうか訊きはしなかっただ――見えないことはわかっていたから――停まってくれと頼みはした。

どうした?

時計が。

どんな時計だ?

背の高いやつ。古そうで。花が彫ってあって。よくあるやつがついてる。行ったり来たり揺れるやつ。

振り子だな。

きっとそうだね。

 

(『インディアナインディアナレアード・ハント 柴田元幸訳)