2016-07-27

夏の吐息は、遠い。

蝉の声が聞こえたのは月のはじめで、夜が明るくなったのはもっと前。

 

夜空を見上げることは、この土地にきてからぐっと少なくなった。どこを見上げても建物が視界に入るし、明るい夜だから。

在りたいようにいることはとても難しい。周囲はそれを汲んで合わせてくれるわけではないし、誰もが応援してくれるわけでも、もちろんない。その中でなんとか道を作らなくてはいけない。

道はない、歩く以外に。

「希望は本来有というものでもなく、無というものでもない。これこそ地上の道のように、初めから道があるのではないが、歩く人が多くなると初めて道が出来る。」

魯迅『故郷』。教科書に乗っていたこの言葉をよく思い出す。そういえば物語の裏に作者が、何らかの思いを持って文章を連ねている人がいるという当たり前の事実に気がついたのはこの一文がはじまりだった。その物語から逸脱したとも思えるほどの主張に机に伏せていた目を上げた瞬間を覚えている。

たぶん、多くの人が歩く道ではないけれど。もしこの先に私が歩いた足跡を誰かが見つけてくれて、それを道としてくれたのなら、どうかそれが善き生につながっていますように。