死んでもいいかと思う瞬間がある

山の影は黒く、浅葱の空と境を曖昧にする。サイドミラーには静かに燃える空が鮮やかに映っていた。川が流れる音が聞こえる。月がひっそりと笑い顔を出しはじめていた。

気がつけば、よるが来ようとしていた。いまこの瞬間だったら、死んでもいいかな、と思う。死ぬ気もないのに。美しい景色に出会うたびにそれを思っているような気がする。不思議だ。もっと、ずっと見ていたいとはならなくて、それどころか、この瞬間で終わりになればいいのにと思ってしまうのはどうしてだろう。

ラジオからは世界の平和を告げるような声が聞こえてくる。こちらの声は誰にも聞こえない。だから、ぐっと息をのむ。