2015-07-16

「嵐が来る前に」

波がうねり、霧のように細かい飛沫が吹き付ける。場違いにもその光景を美しいと思ってしまった。途中、車を止めて荒れる海を目に焼き付ける。

写真にも収めようかと思ったけれど、それはやめた。残しておきたくない感情があるように、残しておきたくない風景がある。決してそれを醜いと思うわけでもなく、むしろ愛おしいものなのに、残してしまった瞬間にそれは変質していく。

遠く、きっとあれは空港だろう、瞬く速さで光が明滅する。灯台、という言葉が頭を巡る。灯台守になるためには旅人に話して聞かせる物語が必要らしい。それが、ぼくの知っている唯一の灯台守に関する知識だ。

彩度の低い世界で夢想する世界はやはり塩辛く、ため息をつく。海に背を向けて、街へと戻る。