2015-04-29

カーテンを開けて朝を見る。曇り。まだ時間が早かったからもう一度、とここ最近の暑さで一枚薄くしたベッドに身体を戻す。どこかへ、逃げ出す夢を見たような気がする。よく知っている場所。燃えるような、夕暮れ時の朱。

 

昨日の帰り道、古書店に寄って暑かったものだから「スーツを脱ぎたい」と言ったら、店主に「脱ぐのは簡単だけど、一度脱いだら今度は着るのが大変だぞ」と、一瞬なんのことだかわからない返事。逡巡のあと、そういうことか、と得心して小さく笑う。いいんです、もともと着る気のなかったものだったんですから。ジャケットを脱いで、ついでにネクタイと第一ボタンを外す。その様子を見ていた店主の苦笑が背中越しに聞こえる。

 

アパートの一室にある喫茶店では誰も話すことなく、本の頁がめくれる音だけが空間に響く。珈琲の、どこか実家を思わせる香り。窓からは路地が見えて、外では人が無意味に往来している。

 

屋号を考えておけと言われている。まだ、見つけていない。どうしようかと、白い陶器の中で珈琲の渦を描く。