2013-11-02 22:12

喫茶店がある一帯で秋祭りがあるから、とマスターに誘われて喫茶店の臨時店員をしていた。 なんてことはない、注文を取って、自分で作れるものは作って、作れないものはマスターに放り投げて、運んで、お会計をする。それだけだ。 それ以外の時間はカウンターに座って本を読んでいた。 もしかしたら働いていた時間よりも本を読んでいた時間の方が長かったかもしれない。 カウンターにいる、というだけで話しかけてもらえることが結構ある。 お客さんの話に巻き込まれたり、道を聞かれたり、営業時間を聞かれたり、ただ雑談をしたいだけだったり、その理由は色々。 お店が暇になって、出店が並んでいる通りに出てみると、さっきまでお店でお茶を飲んでいた人に「あ、カフェでお茶を淹れてくれてた人だ!」と声をかけられたり、 手を振られたりする。そんなことが嬉しくて、ただ、笑顔を返す。 町の記憶の一部になれればいいと思った。 いつか、僕がここを去って、あのお店を訪れたお客さんとマスターが 「そう言えばそんな子もいたねぇ」 と話して、ほんの一瞬でも話の肴になればいい。そう思うのは贅沢だろうか。 記憶にしか居場所がないのならば、どうか少しだけ分けて欲しい。 もしも記憶に残ったその顔が笑顔だったら、泣いてしまいそうな程に嬉しいことだ。