2016-08-02

蝉時雨にさす傘だと言って、店主が件の傘を私に押し付けてきた。見た目は普通の青い日傘で、持ってみるとそれは私が普段使っている傘よりいかばかりか軽いような気がした。 「蝉時雨には傘をさしませんよ」と笑うと、まあそれもそうだな、とあっさりと店主は…

2016-07-28

関東甲信越で梅雨があけたというニュースはインターネットで知った。 確かに、雨は降っていない。 だから、帰り道に久々に空をみあげてみた。街灯の光が眩しくて目を細めた。空では光る点がゆっくりと動いていた。一瞬星かと思ったけれど、違った。星は見え…

2016-07-27

夏の吐息は、遠い。 蝉の声が聞こえたのは月のはじめで、夜が明るくなったのはもっと前。 夜空を見上げることは、この土地にきてからぐっと少なくなった。どこを見上げても建物が視界に入るし、明るい夜だから。 在りたいようにいることはとても難しい。周囲…

2016-06-14

いのちを育てるということをしたくて、先月くらいから植物をそだてはじめている。ゆっくりと空に向かって風に吹かれて雨に打たれて、陽の光を浴びて伸びていく。ほんとうにゆっくりと、気がつかないくらいの速度で。季節の移り変わりよりずっとゆっくりと。 …

2016-05-08

夏みたいに温度が上がってよく晴れた日。 電車の車窓からは美しい水色が見えた。影さえも透かして見えそうな透明度。電車に揺られて1時間。歳の離れた友人の家へ。 BBQなんて、いつ以来だろうか。日差しが眩しい空中庭園にて、日常に祝杯をあげる。 皆の輪か…

2016-05-04

連休前半は、実家へと戻っていた。 曾祖母に会うたびに少しばかり緊張する。忘れられてはいないだろうか、と。もう94歳を越えて、ベッドから起き上がることさえも難しい。まともに歩くことだって。家から出ることを嫌がるから、祖母と母が日夜気を配っている…

2016-03-17

長い冬の先の春に、また今年も近づいて、朝のふわふわとしたひかりだとか、昼の目を細めたくなるような風だとか、夜のあまやかな香りだとか、身体の記憶が呼び起こされるようで、この季節は気持ちが落ち着かなくて正直好きだとは言い難いけれど、迎えるたび…

春の速度で伝わる体温

嘘のように暖かかったのは昨日のことで、今日はまた風が冷たい。 一つひとつ、お別れを伝えていく日々。毎年のようにこの儀式をやっている気がする。それは自分ではどうしようもない流れによるものであったり、それを後押しする自分の意志がある。 ひとつ、…

雑記

先日書いたようなことをずっと考えていて、多分一番最初に考えたのは11歳くらいの時で、当然それは当時の語彙力に即して、また経験に即した考え方だったけれど、結局行き着く結論はいつだって変わらない。幸せでありたいと思う。願うことが許されるのなら、…

家族の肖像

今これを最悪な気分で書いているけれど、それならば書かなければいいって言うけれど、せめてこんなところに書かなければいいって言うけれど、違うんだよ、人の目に触れなければ意味がない。人の目になんか触れてほしくないし、何一つ見てほしいことなんてな…

無題

何度何度、何度、思い返したって、高校の弓道部が大好きだった。それだけを頑張った自分が大好きだった。一緒に頑張ってくれた仲間たちが、大好きだった。

2015-12-07

ここ最近、書きたいことはあってもそれを文字に起こすだけの体力がなくて、書きかけては何度も消して何度も消しては画面を閉じていた。 バースデーイブ。 最低で最悪な日々を、それでも前を向こうとしています。見えていた光はあまりにも頼りなくて、手を伸…

死んでもいいかと思う瞬間がある

山の影は黒く、浅葱の空と境を曖昧にする。サイドミラーには静かに燃える空が鮮やかに映っていた。川が流れる音が聞こえる。月がひっそりと笑い顔を出しはじめていた。 気がつけば、よるが来ようとしていた。いまこの瞬間だったら、死んでもいいかな、と思う…

あなたの言葉はきっと伝わるのだから

「(繰り返しは)たがいに抱く親愛や同意の情を再確認するための、とても優しいやり方です。時には単に、君の言葉が聞こえたよ、私たちいつもこうやって話してきたわよね、と確かめあうのが唯一の動機だったりします。」 「同じ話がだんだんへたになる」

松江

松江にいた。2階の窓から宍道湖を眺めていた。 遠くから太鼓の音が聞こえる。 「聞こえてきますね」 いつの間にか同じ部屋にいた女性に声をかけられる。そうですね、とかなんとか中途半端な返事をしながら、南中の日に照らされる湖面を眺める。湖畔では家族…

大丈夫、カミサマなんてどこにだっていないのだから

できれば何も見たくないのだけれど、いざそうしてみるとどこか寂しさを感じてしまったので、古いラジオのスイッチを入れる。 ザー……ザー……という雨音と言うには少しばかり無秩序なノイズの間から静かに遠く、男性の声が聞こえてくる。 日本語なのか、異国の…

つま先で地球儀を転がす

地球を転がすということをやってみたいので地球儀をどこかかしらから仕入れたい。私のところに来た地球はあわや無残にも自転速度もめちゃくちゃで、公転なんかしない。地軸の傾きも23.5°だったり明日には31.4°になっていたりする。その地球に安寧は訪れない…

2015-09-13

木曜日に体調を崩して、そのままずるずると治らないまま休みの終わりを迎える。 去年も一昨年も、同じ時期に心身の不調を日記に記していて毎年同じリズムで暮らしていることがすこし可笑しい。 そのリズムがandanteであればいいのにと思う。実際はprestoと言…

2015-09-06

あたしはときおり、一匹の猫のことを考える。だけどいまでは彼女のいる場所はわからないし、今遠くで暮らす人達の家では必要とされていなかったのかもしれない。 そこには数年前から新しい猫がやってきているし、そこに住む人は減っている。 ゆめを、みた。…

2015-09-01

汀の夜がやがてやってくる。雨とともに、あるいは、色づいた空気とともに。 やがて街を夜が覆い、ざわめきは遠のいていく。波が引いていくような秋の静けさだ。 「どうか何者もこの密やかな夜を侵しませんよう」呟く声はその形をとるまえに霧散して、静けさ…

2015-08-30

失ってから大切にしてしまうことがあるというのは身を持って知っている。 そのことを自覚していれば、失う前よりもう少し、大切にできるだろうか。

2015-08-24

覚えることはあまりに多い。 電話番号、住所、年に一度しか会わない人の顔、親しくない人の好み、仕事の手順、言葉の遣い方、気の遣い方、お酌の仕方に笑顔の作り方。 けれど、それはすぐに捨ててしまえる。そのための屑籠はとっくの昔に用意をしている。 捨…

2015-08-20(鏡を見るのが怖い)

鏡を見るのが怖いのは現実を見るのが怖いから。鏡を見なければ、自分と目が合うこともない。暗い部屋の中には光は差し込まず、瞼を閉じてもそこに光の温度を感じることはない。 震える呼吸は、震える視線は、相対することを拒むのに、震えている自覚が身を責…

2015-08-15

過去のことばかり。 自分のカメラは大学に入学して1年ほど経ったあとにアルバイトをしたお金を使ってドキドキしながら買った。何枚もの1万円札を渡すような買い物をしたのはそれが2回目だった。 本当は、買う必要なんてなかった。高校を卒業するときに父が持…

2015-08-07・08

「変わっていないよ」 笑いながら、泣きたいような思いで気がついたらそう言い返していた。曾祖母だ。90も半ばになっていよいよ寝ている時間が長くなり、ほとんど話せない状態になっている。今回も帰省したという挨拶にその部屋を訪ねた。 ほとんど目も開か…

2015-08-07

名古屋を経由して実家へ。 名古屋は相変わらずの暑さで、地面は灼けていた。喫茶店のおじさまは少しだけこざっぱりとした風貌になり、しかし口の悪さは相変わらずで安心。本を読んでるそばから「これ面白いぞ」とどんどん本を積んでいく。そんな積まれても読…

20150-08-02

大学2年生の時から、大学院を卒業するまでお世話になった方の「卒業式」。 本当は2月に、私(たち)と卒業のはずだったのに、ずるずると長引いてこの夏まで。これでお終いなんてまだ実感が無いけれど。 懐かしい(なんて、2月に会っているのだから、まだ最近…

2015-07-29

何もかもを諦めないし、手放さない。そういうのは、贅沢かな。贅沢なのだろうな。贅沢のためには対価が必要で、何もかもを手放さないための時間と、(精神的、肉体的)苦痛。 それを越えた先のものを夢見る。美しいと思っていたその先が醜いだけの世界だった…

2015-07-25

言葉はいつまでもどこまでも不自由で、思いだけが先に立ってはそのずっと後を遅れてついてくる。ついてきてくれる時はまだいいけれど、ずっと後ろでぽかんと立ち尽くしているときだってある。 だれにもほんとうのきもちなんて言わずに、一息に逝ってしまえた…

2015-07-24

椅子に座って天井を見上げると、おもっていたよりもそれはずっと高かった。部屋の内側からベランダに向けてゆるやかに傾斜がかかっている。 今の部屋で一番気に入っているところはオートロックでもなく、24時間ゴミ出しできることでもなく、この天井だろう。…