2017-8-31

夕暮れ時、空はまだ赤くなくて、白に近いような青だった。涼しい風が吹いていて、建物と建物の間、銭湯の煙突の先には月がでていた。半分と少しの月。夏の終わりの歌をくちずさみながら、歩いてみる。手は空気を指揮するようにゆれる。楽しい方はあっちかな…

2017-8-16

とぎれ、とぎれの、記憶を思い出したいのに、夏の風がひとつ、吹くたびにわすれていってしまうよな、そんな不安にかられる。朝も、夕も、季節も関係なくすすむ時間の中で、覚えている記憶の断片だけをなぞりながら夜を過ごす。指を一つひとつ折りながら、あ…

2017-8-9

上京してよかったなあ、と思ったことがひとつあって 新宿でレイトショーを見て、そうしたらもう終電とかも終わっちゃっていて だから映画を見たふわふわした頭で、ゆっくり30分くらいかけて家まで歩くんです。 それが楽しい。もう本当に、最高に。

2017-8-8

トリエステ、という響きが特別なものになったのは5年ほど前だっただろうか。教育実習に向かう、開けた野の中を走る電車の先頭車両、その運転席に一番近い場所に立って須賀敦子の『トリエステの坂道』を読んでいた。 その頃、私は日本に帰国したばかりで、日…

2017-8-6(携帯電話を置いて外を歩く)

ここ数日、比較的涼しく過ごしやすかったものの昨日くらいからまた夏が盛り返し、かつて訪れたことのある土地では40度近くまで気温が上がったとも聞いた。 夏が嫌いで、動きが鈍くなり、エアコンをつければ体調を崩し、布団に入ろうにもどうにも暑い。外に出…

2017-8-4

何年ものあいだ、ノアには物が、いろんな物が見えた。幻覚が見え、起きているあいだも夢を見た。いまでは、語るに足るようなものが見えるとしても、たいていの人と同じで眠っているあいだに見るだけだが、前は長年、はっきり目ざめているあいだにいろいろ興…

2017-7-27(人間の(あなたの)ことだけを考えていたい)

生きることの才能がほとほと欠如していて、道もうまく歩けなければ、空気を読みすぎては頬の筋肉を痙攣させて、手は震え、そうして夜一人になっては自己嫌悪が募るばかりだ。 「何お話でしょう?」彼女は尋ねた。「運命について」彼女は眉間に小さなしわを寄…

2017-7-13

何になりたいのか、とそう問われて、いくつかの考えが頭の中に浮かんだ。その考えを全部つかまえて、大きな2つの袋に分けたとしたら、わたしはまだ何かになれるのだということと、つくるひとでありたいということの2つにわけられるのだろうと思う。 でもその…

2017-7-6

花火が上がる、ゆめをみた、ような気がする。 それは電車のなかでみた広告だったかもしれない。記憶は曖昧で不確かだ。遠く、音が聞こえる。花が咲いて、遅れて音が届く。 一番に思い出される花火は、横浜にいた時にみた花火で、それはなんでもない団地の隙…

2017-7-3

本当のことはいらないという。本当のことは大抵都合が悪く、誰かの気分を害することになるから、そんなものを表沙汰にするよりかは、本当のことの一部を切り取って貼り付けて、都合のいいことを述べろ、と。 それは、ある意味正しくて、社会のマイナス面を見…

2017-6-15

「あなたはなにかになりたかったのね」そう言われたのは夢の中だったか、それとも現実だったのか、もう覚えていない。どちらでもよかった。夢の中でも、現実の中でも。夢も現実もそこでの実態は曖昧だ。 どこであっても、私は何かではない。 川沿いを歩いた…

2017/4/17

いくつかの意味のあった日付は、それは昔のことで、今となってはその意味を失って日常の中の過ぎていくひとつのいちにちに変わっていく。 そのことを淋しいとは思わないし、ある意味正常なことなのだろうと思う。そうして長い時間をかけて葬送されたそれは、…

2017-02-01

防犯シャッターなんて閉めたくなくて、夜はできるだけずっと外を見ていたい。 じっと、何も動くものはなくて、ただ虚空の一点だけを見つめている時間が好きで、数年前まではよくやっていた。京都にいるときにその時間を失って、そうしていまもそのままだ。 …

2017-01-19

今年の抱負はと聞かれて、そんなの立てたことないんだけどなあ、と困りつつ、まあでも、ああ、そうだなあ、と「目の前に立ちはだかるもの全部倒すこと」だと答えた。 それは、計画的なものではなく、一種衝動のようなものなのだけれど。 私が好き勝手言って…

盲目の一団が、天井を仰いで

盲目の一団が、天井を仰いで、案内役の声に耳を傾ける。果物があしらわれた照明が視線の先にある。彼らが視るとはどういうことなのだろう、とぼんやりと外に目をやりながら、私は聞くともなくその説明を聞く。一つひとつ、丁寧に案内役が目に見えるものを挙…

2016-12-07

バースデーイブ。 誰よりもはやいお祝いは灯台の光。 目まぐるしく状況は移り変わって留まることを許してはくれない。塩一トンの読書もできないままに日々は過ぎて、手を伸ばす先からするりと言葉はこぼれ落ちて、いつかこの手には何もなくなってしまうので…

2016-11-26

TOPミュージアムへ、東京・TOKYO展を観に行く。 「東京のイメージは様々で、人によって違う」というのが冒頭の説明で、たしかに私のなかのイメージもとても曖昧なものだ。 東京タワーやスカイツリー、築地やスクランブル交差点、満員電車、電気街、銀座の百…

2016-11-5

久々にFBを開いたら、数日前に従姉妹からメッセージが入っていた。 交流を持つのは10年ぶりだろうか。不思議と会ってみたいような気がして「今日会わない?」と誘っていた。私も、あの子も今は東京にいた。私は東京にいたことを隠していた(と言うよりあまり…

2016-10-23

父から何年ぶりかに連絡があったのが一週間と少し前。それには一言だけの返信をした。 なんだかとても仲が悪いみたいだけれど、実際会ったところで多分喧嘩とか、罵倒の言葉を吐いたりだとかそういうことはしないと思う。できない、といった方が正しいのかも…

2016-10-6

地球みたいな空、と夜道を歩きながら思った。意味がわからなくてひとりで笑った。言葉は脈絡もなく頭のなかに降ってきて(湧いてこない、降ってくる、流れ星じゃない、たぶん椿が落ちる感じ)、あとからその意味を考えたりする。 雲の作る斑が、まあるく見え…

きっちり足に合った靴さえあれば、じぶんはどこまでも歩いていけるはずだ。そう心のどこかで思いつづけ、完璧な靴に出会わなかった不幸をかこちながら、私はこれまで生きてきたような気がする。行きたいところ、行くべきところぜんぶにじぶんが行っていない…

2016-09-28

先生、善く生きるとはどういうことですか? 先生。 私の目に、涙が浮かんだ。 善く生きるとは、 どういうことですか? 私はその文字を、見つめた。自分がここで座っていることが、怖くなった。こんなところで、今、なにをしているのか。 (柴崎友香『ビリジ…

2016-09-27

「自分の人生が行き詰まってるからって、他人も世界も一緒にすんなよ。巻き添えにはならへんからな」 夕刊紙を読んでいたおっさんには、なんの反応もなかった。 ジャニスが目を開けているのに気づいた。わたしは言った。 「善く生きる、って……」 ジャニスは…

2016-09-26

ひと駅分、歩くことにしている。 光が通り過ぎていく道で、手を後ろに組みながら、通り過ぎていく人たちを眺めて、きらきらとひかる街を眺めて歩くことはとても楽しい。 歩く速度で思考する。流れる曲のこと、今朝読んだ文章のこと、少しだけ昔のこと、ある…

遠くから楽しそうなあなた達を見ているのは大好きだけれど。 大好きだから、一歩だけさがって後ろから話を聞いている。

2016-08-24

在来線と、新幹線で1時間半ほど。軽井沢がこんなに近いとは知らなかった。何も予定は決めていない。ただ、どこかに行きたくて、まあ、できれば涼しいところがよくて、くらいの浅い思考で行き先を決めた。 駅を出ると深い霧に包まれていた。数m先さえよく見…

2016-08-22

何年ぶりかに、関東に台風が上陸したという。 ビルの中に閉じこもっている間に、それは通りすぎてしまったけれど。まだを打ち付ける雨粒がうるさかった。だれもその音を気にしていなかった。キーボードをたたく音に次第にそれは混じっていった。 18時過ぎに…

2016-08-07

夜、賑やかな音楽が聞こえた。光は水面を揺れていた。 ほんとうに美しいと思ったのなら言葉を重ねる必要なんてどこにもないのだと言った。同じ景色を見ているのだから、表情でも、声音でも、この瞬間が好きなことを理解してもらえる、その感情に嘘はないのだ…

2016-08-04

何度もよみがえる光景がある。 それを思い出すたびに何度だって泣きたいような、悔しいような、やり遂げたような、つまりは、青春の後味みたいな、下から風が吹き上げるような、春の終わりの季節のような、落ち着かない気持ちになる。 多分それは解消される…

2016-08-02

蝉時雨にさす傘だと言って、店主が件の傘を私に押し付けてきた。見た目は普通の青い日傘で、持ってみるとそれは私が普段使っている傘よりいかばかりか軽いような気がした。 「蝉時雨には傘をさしませんよ」と笑うと、まあそれもそうだな、とあっさりと店主は…

2016-07-28

関東甲信越で梅雨があけたというニュースはインターネットで知った。 確かに、雨は降っていない。 だから、帰り道に久々に空をみあげてみた。街灯の光が眩しくて目を細めた。空では光る点がゆっくりと動いていた。一瞬星かと思ったけれど、違った。星は見え…

2016-07-27

夏の吐息は、遠い。 蝉の声が聞こえたのは月のはじめで、夜が明るくなったのはもっと前。 夜空を見上げることは、この土地にきてからぐっと少なくなった。どこを見上げても建物が視界に入るし、明るい夜だから。 在りたいようにいることはとても難しい。周囲…

2016-06-14

いのちを育てるということをしたくて、先月くらいから植物をそだてはじめている。ゆっくりと空に向かって風に吹かれて雨に打たれて、陽の光を浴びて伸びていく。ほんとうにゆっくりと、気がつかないくらいの速度で。季節の移り変わりよりずっとゆっくりと。 …

2016-05-08

夏みたいに温度が上がってよく晴れた日。 電車の車窓からは美しい水色が見えた。影さえも透かして見えそうな透明度。電車に揺られて1時間。歳の離れた友人の家へ。 BBQなんて、いつ以来だろうか。日差しが眩しい空中庭園にて、日常に祝杯をあげる。 皆の輪か…

2016-05-04

連休前半は、実家へと戻っていた。 曾祖母に会うたびに少しばかり緊張する。忘れられてはいないだろうか、と。もう94歳を越えて、ベッドから起き上がることさえも難しい。まともに歩くことだって。家から出ることを嫌がるから、祖母と母が日夜気を配っている…

2016-03-17

長い冬の先の春に、また今年も近づいて、朝のふわふわとしたひかりだとか、昼の目を細めたくなるような風だとか、夜のあまやかな香りだとか、身体の記憶が呼び起こされるようで、この季節は気持ちが落ち着かなくて正直好きだとは言い難いけれど、迎えるたび…

春の速度で伝わる体温

嘘のように暖かかったのは昨日のことで、今日はまた風が冷たい。 一つひとつ、お別れを伝えていく日々。毎年のようにこの儀式をやっている気がする。それは自分ではどうしようもない流れによるものであったり、それを後押しする自分の意志がある。 ひとつ、…

雑記

先日書いたようなことをずっと考えていて、多分一番最初に考えたのは11歳くらいの時で、当然それは当時の語彙力に即して、また経験に即した考え方だったけれど、結局行き着く結論はいつだって変わらない。幸せでありたいと思う。願うことが許されるのなら、…

家族の肖像

今これを最悪な気分で書いているけれど、それならば書かなければいいって言うけれど、せめてこんなところに書かなければいいって言うけれど、違うんだよ、人の目に触れなければ意味がない。人の目になんか触れてほしくないし、何一つ見てほしいことなんてな…

無題

何度何度、何度、思い返したって、高校の弓道部が大好きだった。それだけを頑張った自分が大好きだった。一緒に頑張ってくれた仲間たちが、大好きだった。

2015-12-07

ここ最近、書きたいことはあってもそれを文字に起こすだけの体力がなくて、書きかけては何度も消して何度も消しては画面を閉じていた。 バースデーイブ。 最低で最悪な日々を、それでも前を向こうとしています。見えていた光はあまりにも頼りなくて、手を伸…

死んでもいいかと思う瞬間がある

山の影は黒く、浅葱の空と境を曖昧にする。サイドミラーには静かに燃える空が鮮やかに映っていた。川が流れる音が聞こえる。月がひっそりと笑い顔を出しはじめていた。 気がつけば、よるが来ようとしていた。いまこの瞬間だったら、死んでもいいかな、と思う…

あなたの言葉はきっと伝わるのだから

「(繰り返しは)たがいに抱く親愛や同意の情を再確認するための、とても優しいやり方です。時には単に、君の言葉が聞こえたよ、私たちいつもこうやって話してきたわよね、と確かめあうのが唯一の動機だったりします。」 「同じ話がだんだんへたになる」

松江

松江にいた。2階の窓から宍道湖を眺めていた。 遠くから太鼓の音が聞こえる。 「聞こえてきますね」 いつの間にか同じ部屋にいた女性に声をかけられる。そうですね、とかなんとか中途半端な返事をしながら、南中の日に照らされる湖面を眺める。湖畔では家族…

大丈夫、カミサマなんてどこにだっていないのだから

できれば何も見たくないのだけれど、いざそうしてみるとどこか寂しさを感じてしまったので、古いラジオのスイッチを入れる。 ザー……ザー……という雨音と言うには少しばかり無秩序なノイズの間から静かに遠く、男性の声が聞こえてくる。 日本語なのか、異国の…

つま先で地球儀を転がす

地球を転がすということをやってみたいので地球儀をどこかかしらから仕入れたい。私のところに来た地球はあわや無残にも自転速度もめちゃくちゃで、公転なんかしない。地軸の傾きも23.5°だったり明日には31.4°になっていたりする。その地球に安寧は訪れない…

2015-09-13

木曜日に体調を崩して、そのままずるずると治らないまま休みの終わりを迎える。 去年も一昨年も、同じ時期に心身の不調を日記に記していて毎年同じリズムで暮らしていることがすこし可笑しい。 そのリズムがandanteであればいいのにと思う。実際はprestoと言…

2015-09-06

あたしはときおり、一匹の猫のことを考える。だけどいまでは彼女のいる場所はわからないし、今遠くで暮らす人達の家では必要とされていなかったのかもしれない。 そこには数年前から新しい猫がやってきているし、そこに住む人は減っている。 ゆめを、みた。…

2015-09-01

汀の夜がやがてやってくる。雨とともに、あるいは、色づいた空気とともに。 やがて街を夜が覆い、ざわめきは遠のいていく。波が引いていくような秋の静けさだ。 「どうか何者もこの密やかな夜を侵しませんよう」呟く声はその形をとるまえに霧散して、静けさ…

2015-08-30

失ってから大切にしてしまうことがあるというのは身を持って知っている。 そのことを自覚していれば、失う前よりもう少し、大切にできるだろうか。